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博士に学ぶ学校作り

及川 巌
新渡戸稲造研究 第9号より

新渡戸稲造研究 第9号
新渡戸稲造研究
発行:(財)新渡戸基金
所在:盛岡市内丸2-10 テレビ岩手1階

 新宿の高層ビル街を眺めながら三台のバスは一路東京文化学園へと向かった。甲州街道を少し走ると中野区へと入り、カーナビが東京文化学園を示している。バスを降りた私たち旅行団は、明るい笑顔の生徒達の歓迎を受けた。「どこから来たのですか」と、子どもらしい屈託のない質問が窓越しに飛んでくる。
 当日の様子を学園のホームページで以下のように紹介している。
新渡戸稲造研究 第9号


平成十二年四月十七日、岩手県の花巻市立矢沢中学校から三年生九十四人と及川巌校長ほか六人の先生が、修学旅行の一環として、郷土の偉人(新渡戸稲造)について学習を深める目的で本学園を訪問し、学園から森本晴生理事長、寺田孝行常務理事らが出迎えた。第三カフェテリア(中学校の食堂)で、実行委員長の小原朋久君からの挨拶に続き、花巻市長と花巻新渡戸記念館館長からのメッセージが理事長に贈られ、花巻市と矢沢中学校からの記念品が贈られた。森本理事長は、学園の初代校長・新渡戸稲造先生が、創立者・森本厚吉先生の恩師であること、文化生活の向上のために本学園が作られたこと、新渡戸先生の英語の書、日本語の書、手紙、色紙が学園にあることなど、新渡戸精神が学園に残されていることを紹介した。その後学園内、校庭の銅像などを見学した。応援団によるエールのあと、新渡戸先生像の前で記念撮影をして、見学が終わった(一部省略)」

今年度本校の修学旅行のスローガンは「出会い、発見、そして感動ある旅行を」サブテーマとして「新渡戸を訪ねて」である。生徒達にとってこの訪問は忘れえぬ思い出となったようである。


石碑 本校は、特色ある学校作りの中心に「新渡戸稲造博士に学ぶ」を取り上げて三年目になる。きっかけは、本校が、新渡戸家が住んでいた屋敷跡、ならびに花巻新渡戸記念館に隣接していること、校是「本立末治」生徒会スローガン「堅忍不抜」が新渡戸稲造博士の言葉であること、そして優れた先人に学ぶ教育が、今こそ大切なときであるとの認識である。特にも校是「本立末治」の博士揮毫の扁額は、本校にとって貴重な財産である。

矢沢中学校校門側にある新渡戸博士揮毫の石碑


 過去二年間、講師を招聘して十回程度の講演会を開催し学習を進めてきた。特にも昨年度北海道大学総長丹保憲仁先生をお招きしての後援会は生徒に大きな感動を呼んだ。人類愛を基盤に「農」の大切さを熱っぽく語られる先生の不思議な力に引き込まれる一時であった。
 先生からちょうだいした三枚の色紙が本校校長室に掲げられている。先生の揮毫のもので、色紙には「BE, AMBITIOUS」「BE, GENTLMAN」「BE, LADY」の言葉が書かれている。
 「BE, AMBITIOUS」(少年よ、大志を抱け)は、あまりにも有名な言葉であるが、「BE, GENTLMAN」(紳士であれ)は、札幌農学校に着任したクラーク博士がそれまであった校則を全部抹消して「BE, GENTLMAN」の一条のみとした言葉である。先生がおっしゃるには、「これでは片手落ちなので、僕が“BE,LADY”を加えたんだよ」ということ。先生の優しさがこの色紙からもうかがうことができる。
 平成十二年三月、財団法人新渡戸基金事務局長の内川永一朗先生をお招きし、先生の講話をお聞きする機会を得ることができた。この日を記念にして本校では多目的に使用していた講堂を「新渡戸ホール」と命名した。新渡戸稲造博士に関する資料等を展示し、生徒の学習に役立てようとするものである。
 この新渡戸ホールの一角に「今月の新渡戸稲造の言葉」の色紙が飾られている。これは「一日一言」の中に収められてる博士の言葉、あるいは博士が大切にした言葉の中から毎月一つを選定し、生徒に紹介しているものである。ちなみに平成十年四月は「はじめての一歩は道の半ばに当たる。何事も出ようが大切」である。
 ところで、本校では今年度より朝の学級活動の時間の冒頭に「一分間の沈黙」を行っている。新渡戸稲造博士が女子経済専門学校(現東京文化学園)の初代校長に就任、「教職員心得」なるものを口頭で述べたものが現在残っているという。この心得の四項目に「毎日の授業を始むるに当たり、一分間沈黙すること」とあり、本校でもこれを参考に実践しているものである。朝の一分間の静寂は落ち着いた雰囲気の校風作りに大きく役立っている。


矢沢中学講演会  今年も、五回の講演会を予定している。第三回目の講演会には、大阪市立大学名誉教授「佐藤全弘」先生に来校いただいた。同日「アクテブな青年、新渡戸稲造」を上梓された佐藤みさ子氏にもおいでをいただき、佐藤全弘先生との対談も行われた。

矢沢中学校全校生徒の「新渡戸博士の愛と人生に学ぶ」
佐藤全弘氏講演会=二〇〇〇年六月五日。同校体育館で。



 今後、生徒達は「自分の手で新渡戸稲造博士を知ろう」という学習に挑むことになる。
 この学習は「課題解決を通して生きる力を育てることを目指す学習」「課題解決の方法を学習」といったねらいをもつ総合的な学習へと発展していくものであり、その成果を期待している。
 総合的な学習の時間は、平成十四年度から実施される新学習指導要領の特徴の一つである。本校としては、生徒に対し、今つけたい力、将来に期待する力を見極めながら、新渡戸稲造博士の生き方、考え方に学ぶと共に、自ら課題の解決の仕方を学ぶ教育に鋭意努力していきたいものと考えている。
 過日、卒業した高校生から二通の手紙が届いた。一通は高校の部活動は学習との両立とで苦しいけれども中学校時代に学んだ新渡戸稲造の言葉「堅忍不抜」を思い起こしがんばっているとのこと。
 もう一通はクラスの役員の選出時に立候補するかどうかと迷ったけれども、新渡戸稲造の言葉「自分の力が人の役に立つと思うときは進んでやれ」を思い出し、思い切って立候補し、今は役員としてがんばっているとのことなんともうれしい内容の手紙に、思わず心の中で「頑張れよ」とエールを送った。
 新渡戸稲造博士に関するTV放送をVTRに撮ち、翌日の道徳の時間に活用する教員、図書館に新渡戸稲造文庫の設置を提唱する教員、『武士道』を読み始めたという会話が交わされる職員室、明らかに先生方の意識にも変化が見られる。
 これからも、継続して新渡戸稲造に学ぶ教育の推進に職員一丸となってまい進していきたいものと願っている。

花巻市立矢沢中学校校長)


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