現代食品論

本学にフードスペシャリスト第一号が誕生

大出春江


 2000年12月17日、本学においてフードスペシャリスト資格認定試験が実施された。受験したのは、人間環境コースの学生8名である。フードスペシャリスト協会は、今年1月17日付けで、今年度の受験生が全員合格したと伝えてきた。
 フードスペシャリスト資格のためのカリキュラムには調理学実習、調理学、食物学、食品衛生学、食生活と健康(栄養学)などの従来から本学にある科目の他に、フードスペシャリスト論、フードコーディネート論、マーケティングリサーチ、食品鑑別演習、食品流通論、調理科学実験、現代食品論といった、学生はもとより教員にとってもまったく新しい教科がいくつもあり、試行錯誤の一年であった。しかも二年生には資格試験のための指導も必要だった。そのような中での第一回目の受験だったからこの全員合格の意義は本当に大きかった。
 一昨年、文化タイムズにフードスペシャリストを本学に導入した経緯を書いた。そこでは食物関連資格としては後発のフードスペシャリスト資格が要請される社会的状況について次のように述べた。
 すなわち、日本社会において単独世帯の増加、急激な経済成長以降の消費文化の浸透、流通機構の多様化が進行していること。これらを背景に、消費者の側から見ると、安全でおいしい食品の選択が一層重要になってきており、そうした中で、科学的根拠に基づく食品の鑑別技能をもち、消費者が安全で望ましい食生活を送ることができるように、情報提供を通じて援助するフードスペシャリストはこれからが期待できる資格であるということだった。
 このタイムズの記事を書いた直後、雪印乳業の一連の事件が報道され、これを皮切りに他の食品メーカーにおける異物混入事件が次々に明らかにされていった。これらの事件は、食品会社とそこで製造される食品に対するわたしたちの信頼を著しく失わせるものであったが、他方で意図せざる結果としてこの事件は、食品の製造過程や流通経路、食品衛生法など、普段は関心をもちにくい領域に目を向けさせる機能を果たした。
 わたしが担当している現代食品論という授業では、食品に関する新聞記事をとりあげ、要約とそれに対するコメントを13週分以上提出するという課題を出した。その一方で食品メーカーや外食産業、そしてスーパーマーケットの現場で働く人に現代の食品事情をそれぞれの領域から講義をして頂いた。フードスペシャリスト協会常任理事の川端晶子先生にもフードスペシャリスト資格についてご講演頂いた。これらの現場の話は学生のみならず、教員にとっても大変興味深い食の現状を伝えてくれた。 学内で行われる科学的根拠に基づいた学習と学外の現場の学習に支えられて、学生達はこの一年間で多くのことを学んだに違いない。もちろん、フードスペシャリストとしての能力は卒業してからが本当の修得の機会になる。卒業生達のこれからの健闘に期待したい。

出典:『東京文化タイムス339号、2001年3月





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