-1- 第346号  TokyuBunka Times  平成15年7月7日

Haste not, Rest not

急がず、休まず
〜変容し続ける学園〜

理事長 森本晴生

 東京文化短期大学(短大)は、生活学科のなかに、従来の食物栄養専攻と生活文化専攻に新たに生活福祉専攻を加えて三専攻となりました。生活福祉専攻は国家資格である介護福祉士の養成を目的とするものです。同時に、本年度から男女共学とし、七人の男子学生を加えて始まりました。昨年度から男女共学となった東京文化医学技術専門学校(医技)に続くものです。
 さらに、短大では来年度から児童生活専攻を設置して国家資格の保育士の養成をすることを計画しています。これが実現すると、短期大学では栄養士、介護福祉士、保育士の資格を取得することができるようになります。
 医技で養成している臨床検査技師〔受験資格〕を含めると、学園では医療と健康の関連領域での四種類の国家資格の養成を行うことになります。

 短大は昭和二年創立の女子文化高等学院に始まります。そこでは当時の社会を反映して、「女子に経済的独立生活を楽しみうる資格を与えること」を目的としました。特に家庭を科学的に経営する者や、食堂・病院などの経営者・食物主任者などに必要な理論と実際を修得させることに重点をおいたのです。
 翌三年に女子経済専門学校に昇格し、校長に新渡戸稲造先生を迎えました。このとき、学校名の「文化」をやめて「経済」に変えたのは、学校の前提となっている文化活動を、観念的に考えるのではなく、経済方面に進もうとしたことによるものです。
 戦後、学生改革で女子経済専門学校を東京文化短期大学となったとき、再び「文化」を校名に入れました。社会の状況、特に食糧事情や食生活の質が低下している状況を見て、経済的独立生活よりもさらに具体的に食生活を改良することが重要課題となり、家政科を おいて栄養士養成を始めました。


老人ホームを訪問して
老人ホームを訪問して


 現在の社会情勢からは、栄養(食生活)と医療だけでなく、健康の関係領域に展開することが必要と考え、介護福祉士や保育士の養成が必要と考えました。これは創立者、森本厚吉先生の「社会人道のため」(女子文化高等学院の教育方針)に沿ったものです。

「急がず、休まず」

学園にある新渡戸先生書の額の一つに「Haste not, Rest not.」と英文で書かれたものがあります。これは、「急がず、休まず」という意味ですが、何から引用したのかが、わかりませんでした。この言葉は新渡戸先生が好んでいたようで、本学園の他に、盛岡市などにも同様な額が残っています。

Haste not,Rest not.
Haste not,Rest not.


 先日、書店で本を見ているとき、偶然にこの出典を見付けました。「ゲーテ格言集」(高橋健二編訳、新潮文庫)の「人生について」の章の中に次の文がありました。

星のように、
急がず、
しかし休まず、
人はみな
おのが負いめのまわりをめぐれ!
(「温順なクセーニエン」第二集から)

 1831年8月23日カーライルら、イギリスのゲーテ崇拝者15人が82歳のゲーテの誕生祝いに印形を送ってきた。それに「急がず、休まず」の句が刻んであった。ゲーテはそれを喜んで、返礼に次の句を送った。

ブリテン人よ、諸君は理解した、
活動な心、制御された行為、
急がぬ不断の努力を……

 同じ詩が「ゲーテ詩集」(高橋健二訳、新潮文庫)にも出ていますが、最後の行は

 己(おの)が負い目のまわりをめぐれ!

と、漢字を多く使っています。また、巻末の解説に次のような記載があります。

「星のごとく」……は「温順なクセーニエン」二、四(1820〜21年、1823年〜27年)から。「急がず、休まず、というのは、老人ゲーテの最も好んだ境地。

 ゲーテを崇拝したカーライルにこの言葉がゲーテから伝わり、カーライルの「衣装哲学」の影響を強く受け、その本を森本厚吉に譲り渡した新渡戸先生は、カーライルも好んだゲーテのこの言葉を森本厚吉先生に送ったのだろうと想像しています。

>新渡戸先生書の額


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